長く暮らしてLong local life

スパイス香る

おかえりの場所

別府市

彼女の作る料理はスパイスが効いている。
クミン、コリアンダー…
見た目も味も生まれた場所も
様々なスパイスが混ざりあい、
それぞれの個性が活きている。
街も人も人生もスパイスのように
刺激的なまちで、彼女が作り出す食卓に、
いま移住者たちが集まっている。

懐かしさを感じさせる建物にアート作品が溶け込んでいる。建具などは壊される古い旅館からレスキューして活用しているそう。

少し重たいガラスの扉を開けると、清々しい空気が流れていた。ここは宮川 園さんがカフェのオーナーを務める『BASARA HOUSE』。築80年程の古民家をリノベーションし、2階には長期滞在できる個室がある。梁や下地が剥き出した壁のあちこちにはアート作品が飾られ、オープンになったキッチンから宮川さんが気さくに挨拶してくれた。漂うスパイスの香り。新しいものと古いものが共存する空間はなんとも居心地がいい。

「馴染のお店はリビング、通りは廊下で外にお風呂場、街自体が家みたい」と語る宮川さん。建築を学んだ素地がある彼女の視点はユニーク。別府の街を深く愛しているのを感じる。

大分空港から車で約40分、海と山に囲まれた風光明媚な湯のまち別府。日本一の泉質数と、湧出量を誇る温泉がこんこんと湧き出し、それを目当てに年間約880万人(2017年)の観光客が訪れる。近年、留学生や移住者が始めたユニークな店舗が増え、街はますます熱くなっている。

海と山に囲まれ、豊富な温泉に恵まれた別府。古くから湯治場として栄えてきたので、多様な人たちを受け入れる気質は今も健在。古い建物が随所に残る街では、近年アートイベントなども盛ん。

記憶を作り出したい

宮川さんが初めて別府を訪れたのは、建築を学んでいた2009年、別府市内の街づくりプロジェクトへの参加がきっかけだった。都会のかっこいい建物しか知らなかった宮川さんにとって、戦災を免れ、ひとや建物の記憶が残る街は衝撃的だった。雑多で猥雑、個性をそのまま許容する街に魅せられ、翌年、「街づくりは住まないと分からない」と別府へ移住。アートNPOに入社し、セレクトショップの立ち上げや、別府のガイド誌の企画を担当し、仕事も生活も街にどっぷり浸かった。

宮川さんがアートNPO時代に企画したガイド本『旅手帖 beppu』。路地裏のおいしいものや地域に愛される温泉など、別府の街歩き情報が満載。

その後、好きだった料理を独学で研究し、NPOを退職。2013年にキッチン付きスタジオを、2016年に『スパイス食堂クーポノス』を開く。刺激や癒しに繋がるスパイスは、宮川さんの料理に欠かせない。
「美味しいものや面白い食べ物があれば、それを囲む場ができ、みんなでわいわい食べた記憶が残る。これは私にとって建築と同じ。〝たべもの建築家〟として記憶に入り込む料理を作っている」と宮川さんは言う。

スパイスの香りいっぱいの仕込み中。仕事の後は温泉に行き繁華街で夕ごはんが宮川さんの日常だ。街と関わる時間を大切にしている。

別府だからできること

宮川さんが別府で暮らし続けることを選んだのは、ここでなら自分の人生を、自分でデザインできると感じたからだ。
「都会だと、高い家賃を払うために働かなきゃいけないけれど、ここなら家賃も安く、自分がやってみたいお店のプロトタイプが、すぐに簡単にできる。営業スタイルもかっちりしていなくていい。ここでなら、自分の人生をデザインできます。いま同世代の人たちが別府に戻ってきて、街で面白いことをしている」その足掛かりのひとつが、キッチン付きのフリースペース『PUNTO PRECOG』だ。期間限定で借りられるので、宮川さんもチャレンジショップとして活用したひとり。繁華街が近い中心地に立地していることに加え、この場所自体にファンがついているので、ここで経験を積んだ後、自分の店舗を構える人が多い。

宮川さんの作る料理は彩り豊か。舌も目も楽しませてくれる料理は一度食べると忘れられない。ガパオライスも人気の一品。

その中でも、需要が高まっているがアジアン料理、なんといってもカレーだ。宮川さん自身、このブームの火付け役でもある。「別府は、留学生や海外からの観光客が多く、カレーは必須の料理。移住者の中には、世界各地を旅してきた人も多いので、スパイスやカレーはマインドにフィットするようで、お店を開く人が増えている。別府のカレーカルチャーの盛り上がりは、今メディアにも取り上げられています」いろんな文化がスパイスで繋がり、新しい別府の魅力が生まれているようだ。

『BASARA HOUSE』のロゴは移住当初のご近所さんで元映画看板絵師、100歳の松尾常巳さん作。「A」が別府タワーになっている。バサラ=すごい。(傾く、派手な。)清川さんの故郷、福岡県飯塚市の方言。

移住者という家族

移住から10年、地域のおじいちゃん、おばあちゃんたちに、街の孫のように可愛がられて暮らした20代を経て、宮川さんの心境、街づくりへの思いも次第に変化していく。心機一転、住むエリアを変え『クーポノス』を辞める時、『山田別荘』の山田るみさんから「一緒に古物件の活用をしないか」と声が掛かる。自身の経験から、仕事を作り出しながら暮らすことの重要性を感じていた宮川さん。別府市の『湯~園地(ゆ~えんち)計画』を総合監修した、音楽作家の清川進也さんも加わり、2018年に〝試住〟の拠点として『BASARA HOUSE』をオープン。以来、市内・外から多くの人が訪れ、新たな街の顔になっている。

誕生日に移住者の友人からプレゼントされたという恐竜のフィギュアと一緒に。後ろの「バサラ」の文字はプレオープンの日に松尾さんが書き入れた。

カフェの看板メニューは、スパイスの効いた特製カレー。土日は2時間で完売する。「ここのコンセプトは『育つ家』。誰と街を作るかが大事だと気付いたから、今はプレーヤーを育てたい。同じ思いを持つ移住者が集まってきていて、みんな家族みたい」
様々な時期を経過し辿り着いた、自分のままでいられる場所。「今はバサラ期」と笑う彼女のキッチンから、食欲をそそるスパイスの香りが漂っていた。

移住した人Local Person

宮川 園さん

熊本県出身/Iターン/たべもの建築家

東京・神奈川で育つ。大学で建築を学び、別府市のまちづくりプロジェクトへの参加をきっかけに2010年同市へ移住。アートNPO勤務やスパイス食堂店長を経て、現在は『BASARA HOUSE』カフェオーナー。食を通じて人が集まる機能や装置を生み出し、場作りを行う。

BASARA HOUSE
カフェを中心に様々な人が集まる

見た目も美しい絶品、2種盛りカレーははずせない。別府の街や暮らしのことも気さくに教えてくれる。

大分県別府市北浜3-2-2

TEL:070-2304-5195

11:00-15:00 不定休

別府の暮らしマップLocal Map

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